鬼が落とした大石(武儀町のむかし話より)
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むかしむかし、武儀の山奥に一匹の鬼が住んでいました。
山には何日も雪が降り続き、食べ物がありません。
おなかをすかせた鬼は、ふらふらと里へおりてきました。
村では子どもたちが雪遊びをしていました。
大きな鬼の姿を見かけると、子どもたちは口々にさけびました。
「踏みつぶされたら大変だ!」
「食べられないうちに、にげろにげろ!」
「おうい、待ってくれぇー」
鬼は、子どもたちの後をおいかけました。
ところがしばらく走った後で、鬼は地面にヘナヘナとくずれるようにしゃがみこみました。
そして、しぼりだすような野太い声で、
「わああう、グエッグエッ」
おなかをかかえて もがきだしました。
岩かげにかくれてそれを見ていた子どもたちは、抜き足さし足、おそるおそる近よってきました。
「どうしたんだろう?」
「おなかでも痛むのかな?」
子どもたちは、顔を見合わせました。
「はらぺこで動けないの?」
ひとりの子どもの言葉に、鬼は目に涙をためて こくんと首をたてにふりました。
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「何か食べ物を持ってきてくれ。たのむ」
鬼は ごつい毛むくじゃらの手を合わせました。
子どもたちは、鬼がかわいそうになり家に帰り、わずかばかりの芋を持ち寄りました。
鬼は、芋にかぶりつきました。
あっという間にムシャムシャ、パクパクと食べてしまいました。
そして、もっと食べ物をせがみました。
「食べ物を持ってきたら、おらたちのたのみも聞いてくれるか?」
「何でも言うがいい」
「その腰についている、ピカピカしているものをおくれ」
「この石は、わしのお守り。やるわけにはいかん。ただ、石の力を見せることはできるぞ」
鬼は、いかつい肩をゆさぶりました。
それを聞いた子どもたちは、また家に帰り芋や栗を持って来ました。
鬼は急に元気が出たのか どっかりと座り込んで、
「ムシャムシャ、パクパク、うまい、うまい」
そう言いながら、見る見るうちに平らげてしまいました。
「ああああ、満腹だ」
鬼は、ふくらんだお腹をポンポンたたいてみせました。
「さあ、この石の力を見せてやる」
そう言って、石をつけたまま
「えいっ!」
とばかり谷川を飛び越えました。
子どもたちは、手をたたいて喜びました。
「何のこれしき。あの山から向こうの山までも飛べるぞ!」
鬼は、大きく胸をはりました。
「わあっ、あの御館野の山から飛べるの?」
「そんなの朝めし前だ!」
鬼は「えいっ!」とばかり御館野の山から、向かいの山をひとっ飛びに越えました。
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その時、鬼は腰の大切な石を落としてしまいました。
あわてた鬼はあたりの山を見廻しましたが、あまり遠くへ飛んだので、何処に落としたのかわかりません。
鬼は泣き泣き山奥へ帰って行きました。
それから、何年も月日がたちましたが、鬼の姿を見かけた人は一人もいません。
その時に鬼が落としたという不思議な『お守り』の石が、今でも多々羅の畑の中にどっしりと残っています。
![鬼が落とした大石(岐阜県関市)](https://nihonheiseimura.org/wp-content/uploads/2020/12/★IMG_2412.jpg)
このむかし話は、書籍「武儀町のむかし話」に収録されています
![武儀町のむかし話](https://nihonheiseimura.org/wp-content/uploads/2020/12/img-507135134-0001.jpg)
発行者:武儀町読書サークル協議会
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