のづちと千本の木(雁曽礼)|武儀の語り草 -昭和・平成編-
「兄弟ゲンカもええかげんにしよ。今に『のづち』がまとわりつくぞ」
今日も、朝からおばあの声がする。隣の部屋では、駄々をこねる幼子が泣きやまない。
「今に『のづち』がまくれてくるぞ」
こんな調子で、その頃は子だくさんが多く、叱る時のおどし文句は『のづち』じゃった。
『のづち』の出るこのあたりは、杉や檜が生い茂る密林の千本の一帯で『水洞』と呼んでいた。夏でもひんやりしていて霊感の漂う気配を感じたものだ。
こんこんと湧き出す澄み切った水を一口含むと、その気持ちよさは、例えようがない。
長い道中、重い荷をセイタ(荷物をくくりつけて背負って運ぶための道具)で背負い、やっとこの地へ着きほっとする人がどれほど多くあったことだろうか。ある人が命の水とも言ったそうだ。
ところが、向かいの山は、谷がずーと上まで続いていて、ある時、山の上から大水が流れて、ひどい山くずれが起きた。噂の『のづち』もその時、大洪水に流されて子孫をなくしたものか、以来、ぱったりと姿を消してしまった。
険しい道すがら、馬が谷川へ落ちて死んだのだろう。馬頭観音も祀られていて、小さな石窟の中に赤い前かけがかけられて静かに見守っていてくださる。
林の中に古ぼけた尼寺の跡地も見受けられるが、話は何もない。
今も時おり、この水源の地へ足を運び、大きく深呼吸をしながら、「のづちヤーイ」と呼んでみる。虚(むな)しくこだまが返ってくるばかりだ・・・・。
長い歴史の中で、生かされては消えていったそれぞれの命を、今ではいとおしく感じている。
このページのお問い合わせ先
| 団体名 | NPO法人日本平成村 |
|---|---|
| 住所 | 岐阜県関市富之保2001番地1 武儀生涯学習センター内 |
| 電話番号 | 0575-49-2855 |
| 担当者 | 事務局長 可児(かに) |
伝説ロマンウォークの会武儀のむかし話「伝説ロマンウォークの会」
「武儀のむかし話」は地域の先人からの言い伝えを元に作られ、平成15年の春に初版30話...