麦倉というのはな、米のちっとも取れなかった村で、村人は毎日麦ばかり食べておった。

どの家にも大切にしまっておく麦の倉があったので『麦倉』とよばれるようになったんじゃ。

麦倉の氏神様は天神様。信心深い村の人たちは天神様を大切に祀り、毎日朝晩おまいりをした。お正月には、りっぱなかど松を立てて祝った。

特にお正月の二日には、仕事始めといって、畑をたがやすくわ初め、芝の刈り初め、馬を飼っておる者は馬の乗り初め、神様に一年の豊作や無事をお願いした。

さて今年の正月も天神様は、白馬に乗って村をお通りになった。

ある家の前にさしかかった時、白馬があんまり勢いよく走ったので家のニワトリがびっくりして、

「バタバタバターッ」
「クワックワックワーッ」

ものすごい声をあげてさわぎたてた。

天神様の白馬もおどろいて、

「ヒヒーン!ヒヒーン」

前足をあげて大暴れとなった。

家の前に立ててあったかど松に、白馬の足がひっかかってかど松をなぎたおした。

そのひょうしに運悪く松葉で目をついた。白馬の目はとうとうつぶれてしまったんじゃ。

天神様は、たいそうおいかりになって、村人におつげをされた。

「これからは、ニワトリを飼ってはいかん」
「かど松は、立ててはいかん」

それからこの麦倉(現在は武儀倉)には、ニワトリを飼う家や、お正月にかど松を立てる家もなくなってしまったということや。