①今ある命

昭和の初期、わしは若かった。あの時代は天皇を『現代の神』としてあがめ、ただただ敬い奉っておったわな。

天皇陛下の御為ならば、何のこの命惜しまりょうかと、誇りに思って出征したわな。その時代のことはしゃあないことやった。と今でもそう思っとる。

軍隊の長官の中には、

「心を鬼にして言い渡す 敵を見たらすぐ殺せ さもなくば、自分が殺されるぞ 」

そう言った人もあった。

ジャングルで見張りに立った時の長官からは、

「誰や、誰か、誰かある?三度聞いて返事がない時は殺すしかない 捕えてもよし、撃ってもよし 」

あの当時の数々の命令が頭の中を過ぎるわな。

東南アジアのニューギニアに配属された時のことじゃ。

当地の住民(カナカ族)は、誠に純情で、ここらで言う丸い性格じゃった。物資は、豊富にあるので、気持ち良く分け与えてくれた。

「生まれた赤ん坊、日本人と同じ肌の色。われは年中太陽に焼けて黒い。日本人兄弟分アメリカ兵に奴隷にされている我々を助けに来てくれた」

そう言って、日本兵は歓待された。

しかし、主食のタロ芋がどんどん減り、種子や皮まで削って喰うようになると、さすがに日本兵を敵視するようになった。そうして弓矢で射ったり、寝静まるのを見届けて、槍で突いたりする。

彼らは裸足で近付くので足音が聞こえにくく心の安まる時がない。とうとう、この地を去ることとなった。

その時、運悪くわしはマラリア病にかかって熱が高く、動くことができなかった。

「我々は、前進せなならん、お前一人を残すは忍びないが耐えてくれ・・・」

そう上官に言われた。

その時の心情は、言葉で言い表すことはできない。

しばらくすると、どうにか動けたので、敵の眼を逃れて、ただ一人無我夢中で逃げた。襲われた時のため、銃弾を持てるだけ背負い、お金も何もかも捨てて逃げた。

「わしは、金運は付いておらなんだが、命運が強かったお陰やった」

今さらながら、つくづく思っとる。

昭和二十年五月二十七日、マルンバで捜索隊員に加わり、一戦陣地に立たされた。一時間余りの大攻撃は凄かった。

「バーンバーンバーン・・ヒューヒューヒュー」

木の生い茂る遮蔽物(外から見えないように遮りかくす物)に隠れていた。なおも攻撃は止まない。まさに一瞬の出来事だった。

あたり一面何もかも吹っ飛んでいた。

「これで、終わりや 」

あの時、直撃を受けておれば今のわたしはない。ますます至近弾は止まない。精神状態は、唯虚ろ、穴の中にいる我が頭上から土の固まりが覆い被さって来る。

「おい、その銃を取ってくれ」

仲間の兵にそう言われて手を伸ばした時、脇の下を銃弾が貫通したことを覚えとる。目の前に今話していた友が息絶えていた。あのような残酷さは二度と見たくない。

昭和二十一年一月、 浦賀へ上陸、すぐ憲兵隊から残務命令が下った。同時に身体検査を受けると、マラリア病との診断。直ちに東京の大蔵病院へ入院させられた。

昭和二十一年六月復員となった。時を経て昭和二十三年二月初旬、マッカーサー本部から、一通の電報が届いた。

その内容は、

「戦犯参考人として出頭せよ」
との命令だった。

十月に、東京の宮城前にある、第一生命総合ビルに、三十日間拘留された。

大声で怒鳴られ、拳骨を食らわされ、最後には疲れ果て思考力も失くなった。

ニィーとすると

「何を笑う。お前は、まだ嘘言う気か・・」

この時は、もう開き直るしかない。

「わしの話が理解してもらえんようなら、どこへなりとも行きます。ただ、神仏を信じて生きるだけです。家族にもそう伝えてください」と言うと、なぜか「帰ってよろしい」 という許可が出た。

今、つらつら思う時、よくぞ耐え抜いたものだ。我が精神力の強さの継続と、神仏のご加護の賜と日夜感謝して生きている。当時のことは、期日、時間、場所すべて生涯忘れることはない。

 

②国旗と千人針

今一人の体験記である。

「勝って来るぞと勇ましく、誓って故郷をでたからは、手柄立てずに死なりょうか・・」

軍歌を背に、大勢に見送られて出征したものだ。

写真の国旗は、出征の時名前を記し励ましを頂いた貴重な旗である。この旗を見るに付け、皆々さまの顔や手記が甦り、忘れられない私の宝物となっている。

この他に、『千人針』(ひと針ずつ千人の手で白布に糸を結んだもの)もある。腹に巻いて出征し、思う存分、外地で働いて、命永らえ復員したことを心から感謝している。

 

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