朝の空気を吸いながら、何かいい遊びはないかなあとひとり言を言いながら太郎吉は、山道を歩いておりました。

「確か、このあたりに、空井戸の跡地があったはずじゃが」
あたりを眺めていたら、急に兎が飛びだしてきました。

「なあんじゃ。野兎かや」
次の日も、そのあたりにさしかかると、ゴソゴソ音がします。

「おや、何かいなあ」
と、木陰にかくれました。

「ありゃりゃ、尾が太いでたしか狐やったぞ」
と思ったが、あっと言う間に逃げて行きました。

三日目も、気になりつつ通りかかると、前よりもっと大きな音がしました。

「わあー今日は、猪じゃ」
大あわてで逃げました。

ますます面白くなって、あたりを調べはじめました。棒で草をかき分けたり、匂いをかいだりしていると、動物の糞らしいものが散乱しています。このあたりに何かあると思っていたら、やっぱり大きな穴が見つかったのです。

「大きな穴だなぁ。この屋敷には、井戸が三つあって、一つ空井戸があると聞いとった。これが水のない井戸か」

そう言いながら、穴の入口をのぞきました。真っ暗です。少し奥へ入りました。

「あれ? 何かおるみたいやぞ。光っとるのは動物の眼じゃないかな?」
ドキドキしながら考えました。

次の日、そこらへ食べ物を置いてみました。案の定食べ物がなくなっています。そこでまた考えました。罠をしかけてみました。やっぱり、荒らされています。もっと強力な罠にしました。わくわくしてきました。

間近に近づくにつれ、鳴き声が耳に入って来ました。
「キー、キー、キー。」

それは猪の子どもでした。何とかひっくくって家へ引っぱって行きました。次の日も次の日も簡単に猟ができるので楽しい毎日が続いておりました。

太郎吉のこの様子に気づいた三郎が、あとをつけました。

「よし、おれもやったろか」
と考えました。

ある日のこと、夜になっても、三郎の姿がありません。家族は心配でめしものどへ通りません。

「三郎、三郎、三郎やーい」

とうとう夜が明けました。川っぷち、竹やぶ、岩のかげ三郎の姿はどこにも見あたりません。噂が広がり村中大騒動となりました。これを耳にした太郎吉は、はっとしました。「あそこにおるかも知れんぞ」

誰もかも、太郎吉のあとについて走りました。案の定、空井戸の奥の大罠に足を取られ、おまけに朽ちた木枠に挟まれて泣いていました。

みんなで相談の結果、この穴を埋めることにしました。

時代劇のテレビで、よく見る逃げ道の珍しい空井戸の穴がこんな近くにあるなんて・・・。誰にも知られず、こんな林の中に眠っていたなんて・・・。皆、驚きました。見つけられた時には、もう埋めてしまうなんて、何となく寂しいものでありました。

一人の老人が、ぽっそりと言いました。

「わしがおらんようになったら、この空井戸の入口も出口も、わからんようになってしまうわなも」

そう言いながら、ぼう然と佇んでおりました。広い屋敷跡の林の中を、静かに風が吹き抜けて行きました。

 

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