床へ入ろうとすると、板戸をたたく音がしました。

「今じぶん、どなたじゃろう」
「おたのみ申す、おたのみ申す」

戸を開けると、お坊さまが立ってござった。

「まことにすまんが一夜のやどを・・・」

福さは、ためらいながらも中へ入れました。

疲れておいでなのか、囲炉裏(いろり)の横でもう寝息が聞こえます。

次の朝、草がゆを作っていると、

「こりゃたまらん、何とええ匂いじゃ」

その笑顔といい、品の良さに心のほぐれる福さでした。何杯もおかわりしつつ、旅のつれづれを語るお坊さまの話に聞き惚(ほ)れていました。

お坊さまはそばに積んであったたき木から一本をぬきとると何やら刻みはじめました。

「まあ、なんとおやさしいお顔ですなも」
「一夜のお礼にと思いましてなぁ」
「それは嬉しいことで・・・」

お坊さまは、何度もお礼をくり返し、別れ惜しげに立ち去りました。

「今日は味噌煮の当番であったなぁ」

福さは、一人言をつぶやきながら外へ出ると、多々羅の北の方に、もう煙が見えます。急ぎ足で近付くにつれて、豆を煮るいい匂いもします。

「どなたさんも、ごくろうさまで・・」

ふと見ると、昨夜お泊めしたお坊さまがにこにこ顔で座っておられました。

「匂いにつられて、ついふらふらとなも」

共同釜の味噌煮は、毎年のことで一ヶ月は続きます。お坊さまはとうとう、最後の日まで煮豆を食しながら、その地に留まり、福さは宿主になってしまいました。

そのお方こそ、噂の高い『円空さん』であることをあとから知りました。

福さは、頂いた手の平ほどの小さな仏像を家の宝として、毎日のように拝んで過ごしました。

そして、円空さんと語り合った話を思い出して懐かしみました。

 

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