牛抱き六兵衛 (水成)|武儀町のむかし話
富之保水成の山奥に、六兵衛と言う力持ちの男がおった。
「今日はお役人の見まわりの日じゃな」
「ありゃ、こんな日に六兵衛さ、牛を引いてあっちからやって来たぞ」
「道がせばいに、どうなるこっちゃ」
お百姓たちは胆を冷やして眺めておった。
「こりゃどうも、すまんこって」
見まわりの役人がござると、六兵衛さは、牛を横だきにして道をあけておじぎした。
「ありゃ、まるで『牛抱き六兵衛』じゃ」
この話は、村中の評判になった。
「今度、高沢観音で『すもう大会』があるそうじゃが、六兵衛さもきっと出るわいな」
「そりゃ出たら、もちろん一番じゃろ」
思ったとおりで、六兵衛は五人投げ、六人投げ、その勢いは格別じゃった。
「六兵衛さもええ体じゃが、相手のあの力こぶも大したものじゃ。おまけにあの胸毛はどうじゃ」
「さあ、今度が見ものじゃなあ」
「どっちも力持ちじゃ。さあ始まるぞ」
見物客は、最後の大勝負に力の入れようは大変なものじゃった。
「それ!押せ、押せ」
「引け、引け!」
長い長い熱のこもる取り組みが続いた。
「オーッ!」
のぶといおたけびとともに、ドシーンとおしたおしたのは、やはり六兵衛じゃった。
「やっぱり六兵衛は横綱じゃ」
仁王立ちの六兵衛を見て、どよめきは渦巻いた。それも束の間、一転して場内は、水を打った様に静まり返った。
相手の男は、あおむきにたおれたまま、いつまでも動かん。六兵衛が抱き起こしたけれどピクリッともしない。六兵衛は肩を落とした。
とぼとぼと坂道を下る六兵衛の後姿はあまりにもあわれじゃった。
それから一ヶ月も過ぎた秋の暮れのこと。
「おうい、おうい。大変じゃ。六兵衛さが、池にはまって死んでござるぞ」
「死んだ?」
「何んという事をしたものじゃ」
「責任を感じてのことじゃろうが、取り返しのつかんことをしたなあ」
みんなは、池のまわりに集まって六兵衛の変わりはてた姿に呆然とした。
一人の長老が重い口を開いた。
「牛抱き六兵衛の地蔵を作ろう。供養せな六兵衛さも浮かばれまいに」
「それがええ、力を授ける地蔵様じゃ」
こうして、六兵衛を祀った地蔵様ができた。
そして、いつしか村の『安産の守り神』となった。
今、水成の南宮神社には、六兵衛のかつぎあげた大石が力石となって残り 祭りのたびに『力だめし石』となって大切にあつかわれている。