岩山崎の水無神社には、大層立派な神様が住んでおられた。

年に一度、飛騨宮代村の本家の垂霧神社の御遷宮(改築で神社の神霊を移す)祝に招かれる日が近づいていた。

「久しぶりに本家へ里帰りが出来る」

神様は、いそいそと荷物をまとめておられた。

「粟野の坂道はひどい。御館野の御仮屋で一服しないとなかなか行けそうにない。茶の用意もしよう。」

神様は、にこにこ顔で一人ごとを言われた。ところで、中之保の勘五郎は、宝物を盗もうと神様の留守をねらっていた。

「暗くなって来た。宝を盗むにはちょうどよい。ヒヒヒヒヒ……」

思った通り計画は成功して、どっさり荷物をかつぎだした。

「立派なものばかり手に入ったが、ああ重い」

御館野の坂まで来た時、にわかに北の空が曇り、風が吹き始めた。

「こりゃ困った。今に雨が来そうだ」

ゴロゴロ、ピカッ、ゴロゴロゴロッ

突然、とどろくような雷が走った。勘五郎は青いほのおにつつまれもだえ苦しんだ。

「神様の祟りじゃ。罰当たりめ。とんでもないことをするからじゃ」

村人は、口々にののしった。宝物は多々羅に祠を建てて納め、水無様と名付けた。

一件落着は束の間、またしても若栗に片桐と呼ぶ神主がおって、以前から水無神社の御神体を盗もうとたくらんでおった。

神主は、若栗の女の人に心を奪われ怠けてばかりいた。

職をとかれ富之保から追い出されたことを恨んでいたので、

「わしは、絶対、御神体を盗んでやるぞ。急がないと飛騨から神様が帰って来てしまわれる。手当たり次第何でもよいわ」

背負いきれない程の品々を若栗の家まで担ぎ込んだ。

その夜、神主の家は、どうしたことか火事を出して大騒ぎになった。

「大変じゃ。宝物が燃えてまう。水をかけてくれえ。水だ、水だあ」

そのうろたえようといったら、集まってきた人たちは、呆気にとられて開いた口がふさがらなかった。

神主は、悪事がばれるやいなや、轡野の乳岩さまのあたりまで逃げた。突然ドドドドドーツと頭上から大岩が落ちて、神主を押しつぶした。

さて、焼け残った宝物はどうなったか?

飛騨から帰った神様は、この出来事を知りおつげをされた。

「一度、我が社より出た宝じゃ。若栗神社を『郷社』と改め、宝物を納めて下され」

その時から、中之保の『郷社』が、富之保の『水無神社』より位が上位になったといわれる。